てやろうと思うけれども、第一私はここに立ったっきり歩く事ができない。おまえどうぞ私のからだの中から金をはぎとってそれをくわえて行って知れないようにあの窓から投げこんでくれまいか」
 とこういうたのみでした。燕は王子のありがたいお志に感じ入りはしましたが、このりっぱな王子から金をはぎ取る事はいかにも進みません。いろいろと躊躇《ちゅうちょ》しています。王子はしきりとおせきになります。しかたなく胸《むね》のあたりの一|枚《まい》をめくり起こしてそれを首尾《しゅび》よく寡婦《かふ》の窓から投げこみました。寡婦は仕事に身を入れているのでそれには気がつかず、やがて御飯時にしたくをしようと立ち上がった時、ぴかぴか光る金の延べ板を見つけ出した時の喜びはどんなでしたろう、神様のおめぐみをありがたくおしいただいてその晩は身になる御飯をいたしたのみでなく、長くとどこおっていたお寺のお布施《ふせ》も済ます事ができまして、涙《なみだ》を流して喜んだのであります。燕も何かたいへんよい事をしたように思っていそいそと王子のお肩にもどって来て今日《きょう》の始末をちくいち言上《ごんじょう》におよびました。
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