で燕をながめておいでになりました。燕はふと身をすりよせて、
「今私をおよびになったのはあなたでございますか」
と聞いてみますと王子はうなずかれて、
「いかにも私だ。実はおまえにすこしたのみたい事があるのでよんだのだが、それをかなえてくれるだろうか」
とおっしゃいます。燕はまだこんなりっぱなかたからまのあたりお声をかけられた事がないのでほくほく喜びながら、
「それはお安い御用です。なんでもいたしますからごえんりょなくおおせつけてくださいまし」と申し上げました。
王子はしばらく考えておられましたがやがて決心のおももちで、
「それではきのどくだが一つたのもう、あすこを見ろ」
と町の西の方をさしながら、
「あすこにきたない一軒立《いっけんだ》ちの家があって、たった一つの窓《まど》がこっちを向いて開いている。あの窓の中をよく見てごらん。一人の年|老《と》った寡婦《かふ》がせっせと針仕事《はりしごと》をしているだろう、あの人はたよりのない身で毎日ほねをおって賃仕事をしているのだがたのむ人が少いので時々は御飯も食べないでいるのがここから見える。私はそれがかわいそうでならないから何かやって助け
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