金色に光った高い王子の立像の肩先《かたさき》に羽を休める事にしました。
 王子の像は石だたみのしかれた往来の四つかどに立っています。さわやかにもたげた頭からは黄金の髪《かみ》が肩まで垂《た》れて左の手を帯刀《おはかせ》のつかに置いて屹《きっ》としたすがたで町を見下しています。たいへんやさしい王子であったのが、まだ年のわかいうちに病気でなくなられたので、王様と皇后がたいそう悲しまれて青銅《からかね》の上に金の延べ板をかぶせてその立像を造り記念のために町の目ぬきの所にそれをお立てになったのでした。
 燕はこのわかいりりしい王子の肩《かた》に羽をすくめてうす寒い一夜を過ごし、翌日《あくるひ》町中をつつむ霧《きり》がやや晴れて朝日がうらうらと東に登ろうとするころ旅立ちの用意をしていますと、どこかで「燕、燕」と自分をよぶ声がします。はてなと思って見回しましたがだれも近くにいる様子はないから羽をのばそうとしますと、また同じように「燕、燕」とよぶものがあります。燕は不思議でたまりません。ふと王子のお顔をあおいで見ますと王子はやさしいにこやかな笑《え》みを浮《う》かべてオパールというとうとい石のひとみ
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