うか金を送って医者に行けるようにしてやりたい。おまえ今日も一つほねをおってくれまいか」
 そこで燕はまた自分の事はわすれてしまって、今度は王子の背《せ》のあたりから金をめくってその方に飛んで行きましたが、画家は室内《なか》には火がなくてうす寒いので窓をしめ切って仕事をしていました。金の投げ入れようがありません。しかたなしに風見の烏に相談しますと、画家は燕が大すきで燕の顔さえ見ると何もかもわすれてしまって、そればかり見ているからおまえも目につくように窓の回りを飛び回ったらよかろうと教えてくれました。そこで燕は得たりとできるだけしなやかな飛びぶりをしてその窓の前を二、三べんあちらこちらに飛びますと、画家はやにわに面《おもて》をあげて、
「この寒いのに燕が来た」
 と言うや否や窓を開いて首をつき出しながら燕の飛び方に見ほれています。燕は得たりかしこしとすきを窺《うかが》って例の金の板を部屋《へや》の中に投げこんでしまいました。画家の喜びは何にたとえましょう。天の助けがあるから自分は眼病をなおした上で無類の名画をかいて見せると勇み立って医師の所にかけつけて行きました。
 王子も燕もはるかにこれ
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