馬車が来たとか今小児が万歳をやっているとか、美しい着物の坊様《ぼうさま》が見えたとか、背《せい》の高い武士が歩いて来るとか、詩人がお祝いの詩を声ほがらかに読み上げているとか、むすめの群れがおどりながら現われたとか、およそ町に起こった事を一つ一つ手に取るように王子にお話をしてあげました。王子はだまったままで下を向いて聞いていらっしゃいます。やがて花よめ花むこが騎馬《きば》でお寺に乗りつけてたいそうさかんな式がありました。その花むこの雄々《おお》しかった事、花よめの美しかった事は燕の早口でも申しつくせませんかった。
 天気のよい秋びよりは日がくれると急に寒くなるものです。さすがににぎやかだった御婚礼が済みますと、町はまたもとのとおりに静かになって夜がしだいにふけてきました。燕は目をきょろきょろさせながら羽根を幾度《いくど》か組み合わせ直して頸《くび》をちぢこめてみましたが、なかなかこらえきれない寒さで寝《ね》つかれません。まんじりともしないで東の空がぼうっとうすむらさきになったころ見ますと屋根の上には一面に白いきらきらしたものがしいてあります。
 燕はおどろいてその由を王子に申しますと、王
前へ 次へ
全21ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
有島 武郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング