ろう。どうかして心が狂ってしまったんだ。こんな事はついぞない事だのに」
葉子はその夜倉地と部屋《へや》を別にして床についた。倉地は階上に、葉子は階下に。絵島丸以来|二人《ふたり》が離れて寝たのはその夜が始めてだった。倉地が真心《まごころ》をこめた様子でかれこれいうのを、葉子はすげなくはねつけて、せっかくとってあった二階の寝床を、女中に下に運ばしてしまった。横になりはしたがいつまでも寝つかれないで二時近くまで言葉どおりに輾転《てんてん》反側しつつ、繰り返し繰り返し倉地の夫婦関係を種々に妄想《もうそう》したり、自分にまくしかかって来る将来の運命をひたすらに黒く塗ってみたりしていた。それでも果ては頭もからだも疲れ果てて夢ばかりな眠りに陥ってしまった。
うつらうつらとした眠りから、突然たとえようのないさびしさにひしひしと襲われて、――それはその時見た夢がそんな暗示になったのか、それとも感覚的な不満が目をさましたのかわからなかった――葉子は暗闇《くらやみ》の中に目を開いた。あらしのために電線に故障ができたと見えて、眠る時にはつけ放しにしておいた灯《ひ》がどこもここも消えているらしかった。あら
前へ
次へ
全465ページ中93ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
有島 武郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング