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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)或《あ》る女

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)西洋|風《ふう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、底本のページと行数)
(例)すっぽり[#「すっぽり」に傍点]
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    二二

 どこかから菊の香がかすかに通《かよ》って来たように思って葉子《ようこ》は快い眠りから目をさました。自分のそばには、倉地《くらち》が頭からすっぽり[#「すっぽり」に傍点]とふとんをかぶって、いびきも立てずに熟睡していた。料理屋を兼ねた旅館のに似合わしい華手《はで》な縮緬《ちりめん》の夜具の上にはもうだいぶ高くなったらしい秋の日の光が障子《しょうじ》越しにさしていた。葉子は往復一か月の余を船に乗り続けていたので、船脚《ふなあし》の揺《ゆ》らめきのなごりが残っていて、からだがふらりふらりと揺れるような感じを失ってはいなかったが、広い畳の間《ま》に大きな軟《やわ》らかい夜具をのべて、五体を思うまま延ばして、一晩ゆっくり[#「ゆっくり」に傍点]と眠り通したその心地《ここち》よさは格別だ
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