のが風に吹きちぎられながら聞こえて来た。倉地がそこにいるという事さえ葉子には意外のようだった。だいぶ離れた所でどたん[#「どたん」に傍点]と戸か何かはずれたような音がしたと思うと、風はまた一しきりうなり[#「うなり」に傍点]を立てて杉叢《すぎむら》をこそいで通りぬけた。車夫は葉子を助けようにも梶棒《かじぼう》を離れれば車をけし飛ばされるので、提灯《ちょうちん》の尻《しり》を風上《かざかみ》のほうに斜《しゃ》に向けて目八|分《ぶ》に上げながら何か大声に後ろから声をかけていた。葉子はすごすごとして玄関口に近づいた。一杯きげんで待ちあぐんだらしい倉地の顔の酒ほてりに似ず、葉子の顔は透き通るほど青ざめていた。なよなよとまず敷き台に腰をおろして、十歩ばかり歩くだけで泥《どろ》になってしまった下駄《げた》を、足先で手伝いながら脱ぎ捨てて、ようやく板の間《ま》に立ち上がってから、うつろな目で倉地の顔をじっ[#「じっ」に傍点]と見入った。
「どうだった寒かったろう。まあこっちにお上がり」
そう倉地はいって、そこに出合わしていた女中らしい人に手ランプを渡すと華車《きゃしゃ》な少し急な階子段《はしごだ
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