を得た口をきいた。
 「古藤さんが時々来てくださるの?」
 と聞いてみると、貞世は不平らしく、
 「いゝえ、ちっとも」
 「ではお手紙は?」
 「来てよ、ねえ愛ねえさま。二人の所に同じくらいずつ来ますわ」
 と、愛子は控え目らしくほほえみながら上目越《うわめご》しに貞世を見て、
 「貞《さあ》ちゃんのほうに余計来るくせに」
 となんでもない事で争ったりした。愛子は姉に向かって、
 「塾《じゅく》に入れてくださると古藤さんが私たちに、もうこれ以上私のして上げる事はないと思うから、用がなければ来ません。その代わり用があったらいつでもそういっておよこしなさいとおっしゃったきりいらっしゃいませんのよ。そうしてこちらでも古藤さんにお願いするような用はなんにもないんですもの」
 といった。葉子はそれを聞いてほほえみながら古藤が二人を塾につれて行った時の様子を想像してみた。例のようにどこの玄関番かと思われる風体《ふうてい》をして、髪を刈る時のほか剃《す》らない顎《あご》ひげを一二|分《ぶ》ほども延ばして、頑丈《がんじょう》な容貌《ようぼう》や体格に不似合いなはにかんだ口つきで、田島という、男のような
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