うな、まつ毛の長い、形のいい大きな目が、涙に美しくぬれて夕月のようにぽっかり[#「ぽっかり」に傍点]とならんでいた。悲しい目つきのようだけれども、悲しいというのでもない。多恨な目だ。多情な目でさえあるかもしれない。そう皮肉な批評家らしく葉子は愛子の目を見て不快に思った。大多数の男はあんな目で見られると、この上なく詩的な霊的な一瞥《いちべつ》を受け取ったようにも思うのだろう。そんな事さえ素早《すばや》く考えの中につけ加えた。貞世が広い帯をして来ているのに、愛子が少し古びた袴《はかま》をはいているのさえさげすまれた。
「そんな事はどうでもようござんすわ。さ、お夕飯にしましょうね」
葉子はやがて自分の妄念《もうねん》をかき払うようにこういって、女中を呼んだ。
貞世は寵児《ペット》らしくすっかりはしゃぎきっていた。二人《ふたり》が古藤につれられて始めて田島《たじま》の塾《じゅく》に行った時の様子から、田島先生が非常に二人《ふたり》をかわいがってくれる事から、部屋《へや》の事、食物の事、さすがに女の子らしく細かい事まで自分|一人《ひとり》の興に乗じて談《かた》り続けた。愛子も言葉少なに要領
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