自分の座にすわると、貞世はその膝《ひざ》に突っ伏してすすり上げすすり上げ可憐《かれん》な背中に波を打たした。これほどまでに自分の帰りを待ちわびてもい、喜んでもくれるのかと思うと、骨肉《こつにく》の愛着からも、妹だけは少なくとも自分の掌握の中にあるとの満足からも、葉子はこの上なくうれしかった。しかし火鉢《ひばち》からはるか離れた向こう側に、うやうやしく居ずまいを正《ただ》して、愛子がひそひそと泣きながら、規則正しくおじぎをするのを見ると葉子はすぐ癪《しゃく》にさわった。どうして自分はこの妹に対して優しくする事ができないのだろうとは思いつつも、葉子は愛子の所作《しょさ》を見ると一々気にさわらないではいられないのだ。葉子の目は意地わるく剣《けん》を持って冷ややかに小柄で堅肥《かたぶと》りな愛子を激しく見すえた。
「会いたてからつけ[#「つけ」に傍点]つけいうのもなんだけれども、なんですねえそのおじぎのしかたは、他人行儀らしい。もっと打ち解けてくれたっていいじゃないの」
というと愛子は当惑したように黙ったまま目を上げて葉子を見た。その目はしかし恐れても恨んでもいるらしくはなかった。小羊のよ
前へ
次へ
全465ページ中43ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
有島 武郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング