いよう」とか「苦しい……苦しいからお薬をください」とか「もう熱を計るのはいや」とか時々|囈言《うわごと》のように言っては、葉子の手にかじりつく貞世の姿はいつ息気《いき》を引き取るかもしれないと葉子に思わせた。
 「ではもう帰りましょうか」
 倉地が岡を促すようにこういった。岡は倉地に対し葉子に対して少しの間《あいだ》返事をあえてするのをはばかっている様子だったが、とうとう思いきって、倉地に向かって言っていながら少し葉子に対して嘆願するような調子で、
 「わたし、きょうはなんにも用がありませんから、こちらに残らしていただいて、葉子さんのお手伝いをしたいと思いますから、お先にお帰りください」
 といった。岡はひどく意志が弱そうに見えながら一度思い入っていい出した事は、とうとう仕畢《しおお》せずにはおかない事を、葉子も倉地も今までの経験から知っていた。葉子は結局それを許すほかはないと思った。
 「じゃわしはお先するがお葉さんちょっと……」
 といって倉地は入り口のほうにしざって行った。おりから貞世はすやすやと昏睡《こんすい》に陥っていたので、葉子はそっ[#「そっ」に傍点]と自分の袖《そで》を
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