と大粒の涙をこぼすのだった。
 倉地は陰鬱《いんうつ》な雨脚《あまあし》で灰色になったガラス窓を背景にして突っ立ちながら、黙ったまま不安らしく首をかしげた。岡は日ごろのめったに泣かない性質に似ず、倉地の後ろにそっ[#「そっ」に傍点]と引きそって涙ぐんでいた。葉子には後ろを振り向いて見ないでもそれが目に見るようにはっきり[#「はっきり」に傍点]わかった。貞世の事は自分|一人《ひとり》で背負って立つ。よけいなあわれみはかけてもらいたくない。そんないらいらしい反抗的な心持ちさえその場合起こらずにはいなかった。過ぐる十日というもの一度も見舞う事をせずにいて、今さらその由々《ゆゆ》しげな顔つきはなんだ。そう倉地にでも岡にでもいってやりたいほど葉子の心はとげとげしくなっていた。で、葉子は後ろを振り向きもせずに、箸《はし》の先につけた脱脂綿《だっしめん》を氷水の中に浸しては、貞世の口をぬぐっていた。
 こうやってもののやや二十分が過ぎた。飾りけも何もない板張りの病室にはだんだん夕暮れの色が催して来た。五月雨《さみだれ》はじめじめと小休《おや》みなく戸外では降りつづいていた。「おねえ様なおしてちょうだ
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