捕えている貞世の手をほどいて、倉地のあとから病室を出た。病室を出るとすぐ葉子はもう貞世を看護している葉子ではなかった。
 葉子はすぐに倉地に引き添って肩をならべながら廊下を応接室のほうに伝って行った。
 「お前はずいぶんと疲れとるよ。用心せんといかんぜ」
 「大丈夫……こっちは大丈夫です。それにしてもあなたは……お忙しかったんでしょうね」
 たとえば自分の言葉は稜針《かどばり》で、それを倉地の心臓に揉《も》み込むというような鋭い語気になってそういった。
 「全く忙しかった。あれからわしはお前の家には一度もよう行かずにいるんだ」
 そういった倉地の返事にはいかにもわだかまりがなかった。葉子の鋭い言葉にも少しも引けめを感じているふうは見えなかった。葉子でさえが危うくそれを信じようとするほどだった。しかしその瞬間に葉子は燕返《つばめがえ》しに自分に帰った。何をいいかげんな……それは白々《しらじら》しさが少し過ぎている。この十日の間に、倉地にとってはこの上もない機会の与えられた十日の間に、杉森《すぎもり》の中のさびしい家にその足跡の印《しる》されなかったわけがあるものか。……さらぬだに、病み果
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