の部屋《へや》に来て見ると、胸毛《むなげ》をあらわ[#「あらわ」に傍点]に襟《えり》をひろげて、セルの両|袖《そで》を高々とまくり上げた倉地が、あぐらをかいたまま、電灯の灯《ひ》の下に熟柿《じゅくし》のように赤くなってこっち[#「こっち」に傍点]を向いて威丈高《いたけだか》になっていた。古藤《ことう》は軍服の膝《ひざ》をきちん[#「きちん」に傍点]と折ってまっすぐに固くすわって、葉子には後ろを向けていた。それを見るともう葉子の神経はびり[#「びり」に傍点]びりと逆立《さかだ》って自分ながらどうしようもないほど荒れすさんで来ていた。「何もかもいやだ、どうでも勝手になるがいい。」するとすぐ頭が重くかぶさって来て、腹部の鈍痛が鉛の大きな球《たま》のように腰をしいたげた。それは二重に葉子をいらいらさせた。
 「あなた方《がた》はいったい何をそんなにいい合っていらっしゃるの」
 もうそこには葉子はタクトを用いる余裕さえ持っていなかった。始終腹の底に冷静さを失わないで、あらん限りの表情を勝手に操縦してどんな難関でも、葉子に特有なしかたで切り開いて行くそんな余裕はその場にはとても出て来なかった。
 
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