るかもしれない。おれはお前も愛するが去った妻も捨てるには忍びない。よくいってくれた。それならお前の言葉に甘えて哀れな妻を呼び迎えよう。妻もさぞお前の黄金のような心には感ずるだろう。おれは妻とは家庭を持とう。しかしお前とは恋を持とう。そういって涙ぐんでくれるかもしれない。もしそんな場面が起こり得たら葉子はどれほどうれしいだろう。葉子はその瞬間に、生まれ代わって、正しい生活が開けてくるのにと思った。それを考えただけで胸の中からは美しい涙がにじみ出すのだった。けれども、そんなばかをいうものではない、おれの愛しているのはお前|一人《ひとり》だ。元の妻などにおれが未練を持っていると思うのが間違いだ。病気があるのならさっそく病院にはいるがいい、費用はいくらでも出してやるから。こう倉地がいわないとも限らない。それはありそうな事だ。その時葉子は自分の心を立ち割って誠を見せた言葉が、情けも容赦も思いやりもなく、踏みにじられけがされてしまうのを見なければならないのだ。それは地獄《じごく》の苛責《かしゃく》よりも葉子には堪《た》えがたい事だ。たとい倉地が前の態度に出てくれる可能性が九十九あって、あとの態度を
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