採りそうな可能性が一つしかないとしても、葉子には思いきって嘆願をしてみる勇気が出ないのだ。倉地も倉地で同じような事を思って苦しんでいるらしい。なんとかして元のようなかけ隔てのない葉子を見いだして、だんだんと陥って行く生活の窮境の中にも、せめてはしばらくなりとも人間らしい心になりたいと思って、葉子に近づいて来ているのだ。それをどこまでも知り抜きながら、そして身につまされて深い同情を感じながら、どうしても面と向かうと殺したいほど憎まないではいられない葉子の心は自分ながら悲しかった。
 葉子は倉地の最後の一言《ひとこと》でその急所に触れられたのだった。葉子は倉地の目の前で見る見るしおれてしまった。泣くまいと気張《きば》りながら幾度も雄々《おお》しく涙を飲んだ。倉地は明らかに葉子の心を感じたらしく見えた。
 「葉子! お前はなんでこのごろそう他所他所《よそよそ》しくしていなければならんのだ。え?」
 といいながら葉子の手を取ろうとした。その瞬間に葉子の心は火のように怒《おこ》っていた。
 「他所他所《よそよそ》しいのはあなたじゃありませんか」
 そう知らず知らずいってしまって、葉子は没義道《も
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