るのか来《こ》んのか」
 正井の来る来ないは大事ではないが、葉子の虚言を訂正させずには置かないというように、倉地は詰め寄せてきびしく問い迫った。葉子は庭のほうにやっていた目を返して不思議そうに倉地を見た。
 「いゝえといったらいゝえとよりいいようはありませんわ。あなたの『いゝえ』とわたしの『いゝえ』は『いゝえ』が違いでもしますかしら」
 「酒も何も飲めるか……おれが暇を無理に作ってゆっくり[#「ゆっくり」に傍点]くつろごうと思うて来れば、いらん事に角《かど》を立てて……何の薬になるかいそれが」
 葉子はもう胸いっぱい悲しくなっていた。ほんとうは倉地の前に突っ伏して、自分は病気で始終からだが自由にならないのが倉地に気の毒だ。けれどもどうか捨てないで愛し続けてくれ。からだがだめになっても心の続く限りは自分は倉地の情人でいたい。そうよりできない。そこをあわれんでせめては心の誠をささげさしてくれ。もし倉地が明々地《あからさま》にいってくれさえすれば、元の細君《さいくん》を呼び迎えてくれても構わない。そしてせめては自分をあわれんでなり愛してくれ。そう嘆願がしたかったのだ。倉地はそれに感激してくれ
前へ 次へ
全465ページ中314ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
有島 武郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング