けれども、今まで秘密にしていた事をなんとかいわれやしないかとの気づかいのためか、それとも倉地が秘密を持つのならこっちも秘密を持って見せるぞという腹になりたいためか、自分にもはっきり[#「はっきり」に傍点]とはわからない衝動に駆られて、何という事なしに、
「いゝえ」
と答えてしまった。
「来《こ》ない?……そりゃお前いいかげんじゃろう」
と倉地はたしなめるような調子になった。
「いゝえ」
葉子は頑固《がんこ》にいい張ってそっぽ[#「そっぽ」に傍点]を向いてしまった。
「おいその団扇《うちわ》を貸してくれ、あおがずにいては蚊でたまらん……来ない事があるものか」
「だれからそんなばかな事お聞きになって?」
「だれからでもいいわさ」
葉子は倉地がまた歯に衣《きぬ》着せた物の言いかたをすると思うとかっ[#「かっ」に傍点]と腹が立って返辞もしなかった。
「葉ちゃん。おれは女のきげんを取るために生まれて来はせんぞ。いいかげんをいって甘く見くびるとよくはないぜ」
葉子はそれでも返事をしなかった。倉地は葉子の拗《す》ねかたに不快を催したらしかった。
「おい葉子! 正井は来《く》
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