ないか。葉子というものに一日一日|疎《うと》くなろうとする倉地ではないか。それに何の不思議があろう。……それにしてもあまりといえばあまりな仕打ちだ。なぜそれならそうと明らかにいってはくれないのだ。いってさえくれれば自分にだって恋する男に対しての女らしい覚悟はある。別れろとならばきれいさっぱりと別れても見せる。……なんという踏みつけかただ。なんという恥さらしだ。倉地の妻はおおそれた貞女ぶった顔を震わして、涙を流しながら、「それではお葉さんという方《かた》にお気の毒だから、わたしはもう亡《な》いものと思ってくださいまし……」……見ていられぬ、聞いていられぬ。……葉子という女はどんな女だか、今夜こそは倉地にしっかり思い知らせてやる……。
葉子は酔ったもののようにふらふらした足どりでそこから引き返した。そして下宿屋に来《き》着いた時には、息気《いき》苦しさのために声も出ないくらいになっていた。下宿の女たちは葉子を見ると「またあの気狂《きちが》いが来た」といわんばかりの顔をして、その夜の葉子のことさらに取りつめた顔色には注意を払う暇もなく、その場をはずして姿を隠した。葉子はそんな事には気もかけ
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