の静けさを破って声を立てる事もはばかられた。もう十|間《けん》というくらいの所まで来た時車はがらがらと音を立てて砂利道《じゃりみち》を動きはじめた。葉子は息気《いき》せき切ってそれに追いつこうとあせったが、見る見るその距離は遠ざかって、葉子は杉森《すぎもり》で囲まれたさびしい暗闇《くらやみ》の中にただ一人《ひとり》取り残されていた。葉子はなんという事なくその辻車《つじぐるま》のいた所まで行って見た。一台よりいなかったので飛び乗ってあとを追うべき車もなかった。葉子はぼんやりそこに立って、そこに字でも書き残してあるかのように、暗い地面《じめん》をじっ[#「じっ」に傍点]と見つめていた。確かにあの女に違いなかった。背《せい》格好といい、髷《まげ》の形といい、小刻みな歩きぶりといい、……あの女に違いなかった。旅行に出るといった倉地は疑いもなくうそ[#「うそ」に傍点]を使って下宿にくすぶっているに違いない。そしてあの女を仲人《ちゅうにん》に立てて先妻とのより[#「より」ノ傍点]を戻《もど》そうとしているに決まっている。それに何の不思議があろう。長年連れ添った妻ではないか。かわいい三人の娘の母では
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