地に近寄ってそのボタンをボタン孔《あな》に入れようとしたが、糊《のり》が硬《こわ》いのと、気おくれがしているのでちょっとははいりそうになかった。
 「すみませんがちょっと脱いでくださいましな」
 「めんどうだな、このままでできようが」
 葉子はもう一度試みた。しかし思うようには行かなかった。倉地はもう明らかにいらいらし出していた。
 「だめか」
 「まあちょっと」
 「出せ、貸せおれに。なんでもない事だに」
 そういってくるり[#「くるり」に傍点]と振り返ってちょっと葉子をにらみつけながら、ひったくるようにボタンを受け取った。そしてまた葉子に後ろを向けて自分でそれをはめようとかかった。しかしなかなかうまく行かなかった。見る見る倉地の手ははげしく震え出した。
 「おい、手伝ってくれてもよかろうが」
 葉子があわてて手を出すとはずみにボタンは畳の上に落ちてしまった。葉子がそれを拾おうとする間もなく、頭の上から倉地の声が雷のように鳴り響いた。
 「ばか! 邪魔をしろといいやせんぞ」
 葉子はそれでもどこまでも優しく出ようとした。
 「御免くださいね、わたしお邪魔なんぞ……」
 「邪魔よ。これ
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