人《ふたり》の下駄《げた》の音だけが聞こえた。
 「しかしこれでいて全くの孤独でもありませんよ。ついこの間から知り合いになった男だが、砂山の砂の中に酒を埋《うず》めておいて、ぶらり[#「ぶらり」に傍点]とやって来てそれを飲んで酔うのを楽しみにしているのと知り合いになりましてね……そいつの人生観《ライフ・フィロソフィー》がばかにおもしろいんです。徹底した運命論者ですよ。酒をのんで運命論を吐くんです。まるで仙人《せんにん》ですよ」
 倉地はどんどん歩いて二人の話し声が耳に入らぬくらい遠ざかった。葉子は木部の口から例の感傷的な言葉が今出るか今出るかと思って待っていたけれども、木部にはいささかもそんなふうはなかった。笑いばかりでなく、すべてにうつろな感じがするほど無感情に見えた。
 「あなたはほんとうに今何をなさっていらっしゃいますの」
 と葉子は少し木部に近よって尋ねた。木部は近寄られただけ葉子から遠のいてまたうつろに笑った。
 「何をするもんですか。人間に何ができるもんですか。……もう春も末になりましたね」
 途轍《とてつ》もない言葉をしいてくっ付けて木部はそのよく光る目で葉子を見た。そし
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