そういって倉地は高々《たかだか》と笑った。葉子は妙に笑えなかった。そしてもう一度海のほうをながめやった。目も届かないような遠くのほうに、大島《おおしま》が山の腰から下は夕靄《ゆうもや》にぼかされてなくなって、上のほうだけがへ[#「へ」に白丸傍点]の字を描いてぼんやり[#「ぼんやり」に傍点]と空に浮かんでいた。
二人《ふたり》はいつか滑川《なめりがわ》の川口の所まで来着いていた。稲瀬川《いなせがわ》を渡る時、倉地は、横浜|埠頭《ふとう》で葉子にまつわる若者にしたように、葉子の上体を右手に軽々とかかえて、苦もなく細い流れを跳《おど》り越してしまったが、滑川のほうはそうは行かなかった。二人は川幅の狭そうな所を尋ねてだんだん上流のほうに流れに沿うてのぼって行ったが、川幅は広くなって行くばかりだった。
「めんどうくさい、帰りましょうか」
大きな事をいいながら、光明寺までには半分道も来《こ》ないうちに、下駄《げた》全体がめいりこむような砂道で疲れ果ててしまった葉子はこういい出した。
「あすこに橋が見える。とにかくあすこまで行ってみようや」
倉地はそういって海岸線に沿うてむっくり[#「
前へ
次へ
全465ページ中261ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
有島 武郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング