た。しかし顔色一つ動かさなかった(倉地以外の人に対しては葉子はその時でもかなりすぐれた自制力の持ち主だった)田川夫人は元よりそこに葉子がいようなどとは思いもかけないので、葉子のほうにちょっと目をやりながらもいっこうに気づかずに、
 「お待たせいたしましてすみません」
 といいながら貴婦人らのほうに近寄って行った。互いの挨拶《あいさつ》が済むか済まないうちに、一同は田川夫人によりそってひそひそと私語《ささや》いた。葉子は静かに機会を待っていた。ぎょっ[#「ぎょっ」に傍点]としたふうで、葉子に後ろを向けていた田川夫人は、肩越しに葉子のほうを振り返った。待ち設けていた葉子は今まで正面に向けていた顔をしとやか[#「しとやか」に傍点]に向けかえて田川夫人と目を見合わした。葉子の目は憎むように笑っていた。田川夫人の目は笑うように憎んでいた。「生意気な」……葉子は田川夫人が目をそらさないうちに、すっく[#「すっく」に傍点]と立って田川夫人のほうに寄って行った。この不意打ちに度を失った夫人は(明らかに葉子がまっ紅《か》になって顔を伏せるとばかり思っていたらしく、居合わせた婦人たちもそのさまを見て、容貌
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