歓楽ももう歓楽自身の歓楽は持たなくなった。歓楽の後には必ず病理的な苦痛が伴うようになった。ある時にはそれを思う事すらが失望だった。それでも葉子はすべての不自然な方法によって、今は振り返って見る過去にばかりながめられる歓楽の絶頂を幻影としてでも現在に描こうとした。そして倉地を自分の力の支配の下《もと》につなごうとした。健康が衰えて行けば行くほどこの焦躁のために葉子の心は休まなかった。全盛期を過ぎた伎芸《ぎげい》の女にのみ見られるような、いたましく廃頽《はいたい》した、腐菌《ふきん》の燐光《りんこう》を思わせる凄惨《せいさん》な蠱惑力《こわくりょく》をわずかな力として葉子はどこまでも倉地をとりこにしようとあせりにあせった。
 しかしそれは葉子のいたましい自覚だった。美と健康とのすべてを備えていた葉子には今の自分がそう自覚されたのだけれども、始めて葉子を見る第三者は、物すごいほど冴《さ》えきって見える女盛りの葉子の惑力に、日本には見られないようなコケットの典型を見いだしたろう。おまけに葉子は肉体の不足を極端に人目をひく衣服で補うようになっていた。その当時は日露《にちろ》の関係も日米の関係も
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