かん》からの出迎えだった。
横浜にも増して見るものにつけて連想の群がり起こる光景、それから来る強い刺激……葉子は宿から回された人力車《じんりきしゃ》の上から銀座《ぎんざ》通りの夜のありさまを見やりながら、危うく幾度も泣き出そうとした。定子の住む同じ土地に帰って来たと思うだけでももう胸はわくわくした。愛子《あいこ》も貞世《さだよ》もどんな恐ろしい期待に震えながら自分の帰るのを待ちわびているだろう。あの叔父叔母《おじおば》がどんな激しい言葉で自分をこの二人《ふたり》の妹に描いて見せているか。構うものか。なんとでもいうがいい。自分はどうあっても二人を自分の手に取り戻《もど》してみせる。こうと思い定めた上は指もささせはしないから見ているがいい。……ふと人力車が尾張町《おわりちょう》のかどを左に曲がると暗い細い通りになった。葉子は目ざす旅館が近づいたのを知った。その旅館というのは、倉地が色ざたでなくひいきにしていた芸者がある財産家に落籍《ひか》されて開いた店だというので、倉地からあらかじめかけ合っておいたのだった。人力車がその店に近づくに従って葉子はその女将《おかみ》というのにふとした懸念を持
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