のふしだら[#「ふしだら」に傍点]まで尾鰭《おひれ》をつけて讒訴《いいつ》けて、早く双鶴館《そうかくかん》に移って行きたいとせがみにせがんだ。倉地は何か思案するらしくそっぽ[#「そっぽ」に傍点]を見い見い耳を傾けていたが、やがて旅館に近くなったころもう一度立ち止まって、
「きょう双鶴館《あそこ》から電話で部屋《へや》の都合を知らしてよこす事になっていたがお前聞いたか……(葉子はそういいつけられながら今まですっかり[#「すっかり」に傍点]忘れていたのを思い出して、少しくてれたように首を振った)……ええわ、じゃ電報を打ってから先に行くがいい。わしは荷物をして今夜あとから行くで」
そういわれてみると葉子はまた一人《ひとり》だけ先に行くのがいやでもあった。といって荷物の始末には二人《ふたり》のうちどちらか一人居残らねばならない。
「どうせ二人一緒に汽車に乗るわけにも行くまい」
倉地がこういい足した時葉子は危うく、ではきょうの「報正新報」を見たかといおうとするところだったが、はっ[#「はっ」に傍点]と思い返して喉《のど》の所で抑《おさ》えてしまった。
「なんだ」
倉地は見かけのわりに
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