のために今夜はここで泊まる。あすの朝学校の時刻までに帰って来なかったら、戸締まりをして出かけていい。そういう意味を書いた。その間に倉地は手早く着がえをして、書類を大きなシナ鞄《かばん》に突っ込んで錠《じょう》をおろしてから、綿密にあくかあかないかを調べた。そして考えこむようにうつむいて上目をしながら、両手をふところにさし込んで鍵《かぎ》を腹帯《はらおび》らしい所にしまい込んだ。
 九時すぎ十時近くなってから二人は連れ立って下宿を出た。増上寺《ぞうじょうじ》前に来てから車を傭《やと》った。満月に近い月がもうだいぶ寒空《さむぞら》高くこうこうとかかっていた。
 二人を迎えた竹柴館の女中は倉地を心得ていて、すぐ庭先に離れになっている二間《ふたま》ばかりの一軒に案内した。風はないけれども月の白さでひどく冷え込んだような晩だった。葉子は足の先が氷で包まれたほど感覚を失っているのを覚えた。倉地の浴したあとで、熱めな塩湯にゆっくり[#「ゆっくり」に傍点]浸ったのでようやく人心地《ひとごこち》がついて戻《もど》って来た時には、素早《すばや》い女中の働きで酒肴《しゅこう》がととのえられていた。葉子が倉地
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