と遠出らしい事をしたのはこれが始めてなので、旅先にいるような気分が妙に二人を親しみ合わせた。ましてや座敷に続く芝生《しばふ》のはずれの石垣《いしがき》には海の波が来て静かに音を立てていた。空には月がさえていた。妹たちに取り巻かれたり、下宿人の目をかねたりしていなければならなかった二人はくつろいだ姿と心とで火鉢《ひばち》により添った。世の中は二人きりのようだった。いつのまにか良人《おっと》とばかり倉地を考え慣れてしまった葉子は、ここに再び情人を見いだしたように思った。そして何とはなく倉地をじらしてじらしてじらし抜いたあげくに、その反動から来る蜜《みつ》のような歓語を思いきり味わいたい衝動に駆られていた。そしてそれがまた倉地の要求でもある事を本能的に感じていた。
「いいわねえ。なぜもっと早くこんな所に来なかったでしょう。すっかり苦労も何も忘れてしまいましたわ」
葉子はすべすべとほてって少しこわばるような頬《ほお》をなでながら、とろけるように倉地を見た。もうだいぶ酒の気のまわった倉地は、女の肉感をそそり立てるようなにおいを部屋《へや》じゅうにまき散らす葉巻をふかしながら、葉子を尻目《しり
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