するには遠すぎるという理由のもとにそこをやめて、飯倉《いいくら》にある幽蘭《ゆうらん》女学校というのに通わせる事にした。
二人《ふたり》が学校に通い出すようになると、倉地は朝から葉子の所で退校時間まで過ごすようになった。倉地の腹心の仲間たちもちょいちょい出入りした。ことに正井という男は倉地の影のように倉地のいる所には必ずいた。例の水先案内業者組合の設立について正井がいちばん働いているらしかった。正井という男は、一見放漫なように見えていて、剃刀《かみそり》のように目はしのきく人だった。その人が玄関からはいったら、そのあとに行って見ると履《は》き物《もの》は一つ残らずそろえてあって、傘《かさ》は傘で一隅《いちぐう》にちゃん[#「ちゃん」に傍点]と集めてあった。葉子も及ばない素早《すばや》さで花びんの花のしおれかけたのや、茶や菓子の足《た》しなくなったのを見て取って、翌日は忘れずにそれを買いととのえて来た。無口のくせにどこかに愛矯《あいきょう》があるかと思うと、ばか笑いをしている最中に不思議に陰険な目つきをちらつかせたりした。葉子はその人を観察すればするほどその正体がわからないように思った
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