沈黙《しじま》の中にも声はあった。十二時を打つぼんぼん時計、「かるた」を読み上げるらしいはしゃい[#「はしゃい」に傍点]だ声、何に驚いてか夜なきをする鶏……葉子はそんな響きを探り出すと、人の生きているというのが恐ろしいほど不思議に思われ出した。
急に寒さを覚えて葉子は寝じたくに立ち上がった。
三一
寒い明治三十五年の正月が来て、愛子たちの冬期休暇も終わりに近づいた。葉子は妹たちを再び田島|塾《じゅく》のほうに帰してやる気にはなれなかった。田島という人に対して反感をいだいたばかりではない。妹たちを再び預かってもらう事になれば葉子は当然|挨拶《あいさつ》に行って来《く》べき義務を感じたけれども、どういうものかそれがはばかられてできなかった。横浜の支店長の永井《ながい》とか、この田島とか、葉子には自分ながらわけのわからない苦手《にがて》の人があった。その人たちが格別偉い人だとも、恐ろしい人だとも思うのではなかったけれども、どういうものかその前に出る事に気が引けた。葉子はまた妹たちが言わず語らずのうちに生徒たちから受けねばならぬ迫害を思うと不憫《ふびん》でもあった。で、毎日通学
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