《あわ》せて汽船会社の責任を問う事とすべし。読者請う刮目《かつもく》してその時を待て」
[#ここで字下げ終わり]
 葉子は下くちびるをかみしめながらこの記事を読んだ。いったい何新聞だろうと、その時まで気にも留めないでいた第一面を繰り戻《もど》して見ると、麗々《れいれい》と「報正新報」と書してあった。それを知ると葉子の全身は怒りのために爪《つめ》の先まで青白くなって、抑《おさ》えつけても抑えつけてもぶるぶると震え出した。「報正新報」といえば田川《たがわ》法学博士の機関新聞だ。その新聞にこんな記事が現われるのは意外でもあり当然でもあった。田川夫人という女はどこまで執念《しゅうね》く卑しい女なのだろう。田川夫人からの通信に違いないのだ。「報正新報」はこの通信を受けると、報道の先鞭《せんべん》をつけておくためと、読者の好奇心をあおるためとに、いち早くあれだけの記事を載せて、田川夫人からさらにくわしい消息の来るのを待っているのだろう。葉子は鋭くもこう推《すい》した。もしこれがほかの新聞であったら、倉地の一身上の危機でもあるのだから、葉子はどんな秘密な運動をしても、この上の記事の発表はもみ消さなけ
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