けかんむりにエにふしづくり」、12−2]の先妻
こういう大業《おおぎょう》な標題がまず葉子の目を小痛《こいた》く射つけた。
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「本邦にて最も重要なる位置にある某汽船会社の所有船○○丸の事務長は、先ごろ米国航路に勤務中、かつて木部孤※[#「※」は「たけかんむりにエにふしづくり」、12−5]に嫁《か》してほどもなく姿を晦《くら》ましたる莫連《ばくれん》女某が一等船客として乗り込みいたるをそそのかし、その女を米国に上陸せしめずひそかに連れ帰りたる怪事実あり。しかも某女といえるは米国に先行せる婚約の夫《おっと》まである身分のものなり。船客に対して最も重き責任を担《にな》うべき事務長にかかる不埒《ふらち》の挙動ありしは、事務長一個の失態のみならず、その汽船会社の体面にも影響する由々《ゆゆ》しき大事なり。事の仔細《しさい》はもれなく本紙の探知したる所なれども、改悛《かいしゅん》の余地を与えんため、しばらく発表を見合わせおくべし。もしある期間を過ぎても、両人の醜行改まる模様なき時は、本紙は容赦なく詳細の記事を掲げて畜生道《ちくしょうどう》に陥りたる二人《ふたり》を懲戒し、併
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