れでいい。満足この上なしだ。……自分ながらおれはばかになり腐ったらしいて」
 そういって葉子の首を固くかきいだいた。葉子は倉地の言葉を酒のように酔い心地《ごこち》にのみ込みながら「あなただけにそうはさせておきませんよ。わたしだって定子をみごとに捨てて見せますからね」と心の中で頭を下げつつ幾度もわびるように繰り返していた。それがまた自分で自分を泣かせる暗示となった。倉地の胸に横たえられた葉子の顔は、綿入れと襦袢《じゅばん》とを通して倉地の胸を暖かく侵すほど熱していた。倉地の目も珍しく曇っていた。そうして泣き入る葉子を大事そうにかかえたまま、倉地は上体を前後に揺すぶって、赤子《あかご》でも寝かしつけるようにした。戸外ではまた東京の初冬に特有な風が吹き出たらしく、杉森《すぎもり》がごう[#「ごう」に傍点]ごうと鳴りを立てて、枯れ葉が明るい障子に飛鳥のような影を見せながら、からからと音を立ててかわいた紙にぶつかった。それは埃立《ほこりだ》った、寒い東京の街路を思わせた。けれども部屋《へや》の中は暖かだった。葉子は部屋の中が暖かなのか寒いのかさえわからなかった。ただ自分の心が幸福にさびしさに燃え
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