じ得た葉子は、この上倉地の妻の事を疑うべき力は消え果てていた。葉子の顔は涙にぬれひたりながらそれをふき取りもせず、倉地にすり寄って、その両肩に手をかけて、ぴったり[#「ぴったり」に傍点]と横顔を胸にあてた。夜となく昼となく思い悩みぬいた事がすでに解決されたので、葉子は喜んでも喜んでも喜び足りないように思った。自分も倉地と同様に胸の中がすっきり[#「すっきり」に傍点]すべきはずだった。けれどもそうは行かなかった。葉子はいつのまにか去られた倉地の妻その人のようなさびしい悲しい自分になっているのを発見した。
倉地はいとしくってならぬようにエボニー色の雲のようにまっ黒にふっくり[#「ふっくり」に傍点]と乱れた葉子の髪の毛をやさしくなで回した。そしていつもに似ずしんみり[#「しんみり」に傍点]した調子になって、
「とうとうおれも埋《うも》れ木《ぎ》になってしまった。これから地面の下で湿気を食いながら生きて行くよりほかにはない。――おれは負け惜しみをいうはきらいだ。こうしている今でもおれは家内や娘たちの事を思うと不憫《ふびん》に思うさ。それがない事ならおれは人間じゃないからな。……だがおれはこ
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