わたしはうれしい……」
 倉地は今さら何をいうというような平気な顔で葉子の泣くのを見守っていたが、
 「妾《めかけ》も囲い者もあるかな、おれには女はお前|一人《ひとり》よりないんだからな。離縁状は横浜の土を踏むと一緒に嬶《かかあ》に向けてぶっ飛ばしてあるんだ」
 といってあぐらの膝《ひざ》で貧乏ゆすりをし始めた。さすがの葉子も息気《いき》をつめて、泣きやんで、あきれて倉地の顔を見た。
 「葉子、おれが木村以上にお前に深惚《ふかぼ》れしているといつか船の中でいって聞かせた事があったな。おれはこれでいざとなると心にもない事はいわないつもりだよ。双鶴館《そうかくかん》にいる間もおれは幾日も浜には行きはしなんだのだ。たいていは家内《かない》の親類たちとの談判で頭を悩ませられていたんだ。だがたいていけりがついたから、おれは少しばかり手回りの荷物だけ持って一足《ひとあし》先にここに越して来たのだ。……もうこれでええや。気がすっぱり[#「すっぱり」に傍点]したわ。これには双鶴館のお内儀《かみ》も驚きくさるだろうて……」
 会社の辞令ですっかり[#「すっかり」に傍点]倉地の心持ちをどん底《ぞこ》から感
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