寄って別れを惜しむというその席に顔を出すのが、自分自身をばかにしきったことのようにしか思われなかった。こんなくらいなら定子の所にでもいるほうがよほどましだった。こんな事のあるはずだったのをどうしてまた忘れていたものだろう。どこにいるのもいやだ。木部の家を出て、二度とは帰るまいと決心した時のような心持ちで、拾いかけた草履をたたきに戻《もど》そうとしたその途端に、
 「ねえさんもういや……いや」
 といいながら、身を震わしてやにわに胸に抱きついて来て、乳の間のくぼみに顔を埋《うず》めながら、成人《おとな》のするような泣きじゃくり[#「じゃくり」に傍点]をして、
 「もう行っちゃいやですというのに」
 とからく[#「からく」に傍点]言葉を続けたのは貞世《さだよ》だった。葉子は石のように立ちすくんでしまった。貞世は朝からふきげんになってだれのいう事も耳には入れずに、自分の帰るのばかりを待ちこがれていたに違いないのだ。葉子は機械的に貞世に引っぱられて階子段《はしごだん》をのぼって行った。
 階子段をのぼりきって見ると客間はしん[#「しん」に傍点]としていて、五十川《いそがわ》女史の祈祷《きとう》
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