下に隠しながらじっ[#「じっ」に傍点]と葉子の立ち姿を振り返ってまで見て通るのに気がついた。
 葉子は悪事でも働いていた人のように、急に笑顔を引っ込めてしまった。そしてこそ[#「こそ」に傍点]こそとそこを立ちのいて不忍《しのばず》の池《いけ》に出た。そして過去も未来も持たない人のように、池の端につくねん[#「つくねん」に傍点]と突っ立ったまま、池の中の蓮《はす》の実の一つに目を定めて、身動きもせずに小半時《こはんとき》立ち尽くしていた。

    八

 日の光がとっぷり[#「とっぷり」に傍点]と隠れてしまって、往来の灯《ひ》ばかりが足もとのたよりとなるころ、葉子は熱病患者のように濁りきった頭をもてあまして、車に揺られるたびごとに眉《まゆ》を痛々しくしかめながら、釘店《くぎだな》に帰って来た。
 玄関にはいろいろの足駄《あしだ》や靴《くつ》がならべてあったが、流行を作ろう、少なくとも流行に遅れまいというはなやかな心を誇るらしい履物《はきもの》といっては一つも見当たらなかった。自分の草履《ぞうり》を始末しながら、葉子はすぐに二階の客間の模様を想像して、自分のために親戚《しんせき》や知人が
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