−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)或《あ》る女(前編)

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)八|分《ぶ》がたしまりかかった

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、底本のページと行数)
(例)さっき[#「さっき」に傍点]の車夫が

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ずき/\/\と頭の心《しん》が痛んで
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−

    一

 新橋《しんばし》を渡る時、発車を知らせる二番目の鈴《ベル》が、霧とまではいえない九月の朝の、煙《けむ》った空気に包まれて聞こえて来た。葉子《ようこ》は平気でそれを聞いたが、車夫は宙を飛んだ。そして車が、鶴屋《つるや》という町のかどの宿屋を曲がって、いつでも人馬の群がるあの共同井戸のあたりを駆けぬける時、停車場の入り口の大戸をしめようとする駅夫と争いながら、八|分《ぶ》がたしまりかかった戸の所に突っ立ってこっちを見まもっている青年の姿を見た。
 「まあおそくなってすみませんでした事……まだ間に合いますかしら
次へ
全339ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
有島 武郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング