くれでないか」
 葉子はまたかと思った。働きのない良人《おっと》に連れ添って、十五年の間《あいだ》丸帯一つ買ってもらえなかった叔母の訓練のない弱い性格が、こうさもしくなるのをあわれまないでもなかったが、物怯《ものお》じしながら、それでいて、欲にかかるとずうずうしい、人のすきばかりつけねらう仕打ちを見ると、虫唾《むしず》が走るほど憎かった。しかしこんな思いをするのもきょうだけだと思って部屋の中に案内した。叔母は空々《そらぞら》しく気の毒だとかすまないとかいい続けながら錠をおろした箪笥《たんす》を一々あけさせて、いろいろと勝手に好みをいった末に、りゅう[#「りゅう」に傍点]とした一揃《ひとそろ》えを借る事にして、それから葉子の衣類までをとやかくいいながら去りがてにいじくり回した。台所からは、みそ汁《しる》の香《にお》いがして、白痴の子がだらしなく泣き続ける声と、叔父《おじ》が叔母を呼び立てる声とが、すがすがしい朝の空気を濁すように聞こえて来た。葉子は叔母にいいかげんな返事をしながらその声に耳を傾けていた。そして早月家の最後の離散という事をしみじみと感じたのであった。電話はある銀行の重役をし
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