だ。そしてそれをかかえて、手燭《てしょく》を吹き消しながら部屋《へや》を出ようとすると、廊下に叔母《おば》が突っ立っていた。
「もう起きたんですね……片づいたかい」
と挨拶《あいさつ》してまだ何かいいたそうであった。両親を失ってからこの叔母夫婦と、六歳になる白痴の一人息子《ひとりむすこ》とが移って来て同居する事になったのだ。葉子の母が、どこか重々しくって男々《おお》しい風采《ふうさい》をしていたのに引きかえ、叔母は髪の毛の薄い、どこまでも貧相に見える女だった。葉子の目はその帯《おび》しろ裸《はだか》な、肉の薄い胸のあたりをちらっ[#「ちらっ」に傍点]とかすめた。
「おやお早うございます……あらかた片づきました」
といってそのまま二階に行こうとすると、叔母は爪《つめ》にいっぱい垢《あか》のたまった両手をもやもやと胸の所でふりながら、さえぎるように立ちはだかって、
「あのお前さんが片づける時にと思っていたんだがね。あすのお見送りに私は着て行くものが無いんだよ。おかあさんのもので間《ま》に合うのは無いだろうかしらん。あすだけ借りればあとはちゃんと始末をして置くんだからちょっと見てお
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