日ごろは見向きもしなかった親類たちが寄り集まって来て、早月家《さつきけ》には毛の末ほども同情のない心で、早月家の善後策について、さも重大らしく勝手気ままな事を親切ごかしにしゃべり[#「しゃべり」に傍点]散らすのを聞かされた時、どうにでもなれという気になって、暴《あば》れ抜いた事が、自分にさえ悲しい思い出となって、葉子の頭の中を矢のように早くひらめき通った。葉子の顔には人に譲ってはいない自信の色が現われ始めた。
 「母の初七日《しょなぬか》の時もね、わたしはたて続けにビールを何杯飲みましたろう。なんでもびんがそこいらにごろごろころがりました。そしてしまいには何がなんだか夢中になって、宅に出入りするお医者さんの膝《ひざ》を枕《まくら》に、泣き寝入りに寝入って、夜中《よなか》をあなた二時間の余《よ》も寝続けてしまいましたわ。親類の人たちはそれを見ると一人帰り二人帰りして、相談も何もめちゃくちゃになったんですって。母の写真を前に置いといて、わたしはそんな事までする人間ですの。おあきれになったでしょうね。いやなやつでしょう。あなたのような方から御覧になったら、さぞいやな気がなさいましょうねえ」

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