わからなくなって、子供のように泣きつづけると、そのうちにまた眠たくなって一寝入りしますのよ。そうするとそのあとはいくらかさっぱり[#「さっぱり」に傍点]するんです。……父や母が死んでしまってから、頼みもしないのに親類たちからよけいな世話をやかれたり、他人力《ひとぢから》なんぞをあてにせずに妹|二人《ふたり》を育てて行かなければならないと思ったりすると、わたしのような、他人様《ひとさま》と違って風変《ふうが》わりな、……そら、五本の骨でしょう」
とさびしく笑った。
「それですものどうぞ堪忍《かんにん》してちょうだい。思いきり泣きたい時でも知らん顔をして笑って通していると、こんなわたしみたいな気まぐれ者になるんです。気まぐれでもしなければ生きて行けなくなるんです。男のかたにはこの心持ちはおわかりにはならないかもしれないけれども」
こういってるうちに葉子は、ふと木部との恋がはかなく破れた時の、われにもなく身にしみ渡るさびしみや、死ぬまで日陰者であらねばならぬ私生子の定子の事や、計らずもきょうまのあたり見た木部の、心《しん》からやつれた面影などを思い起こした。そしてさらに、母の死んだ夜、
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