た暇乞《いとまご》いに来たというのだった。葉子は紅《あか》くなった目を少し恥ずかしげにまたたかせながら、いろいろと慰めた。
「何ねこう老いぼれちゃ、こんな稼業《かぎょう》をやってるがてんで[#「てんで」に傍点]うそなれど、事務長さんとボンスン(水夫長)とがかわいそうだといって使ってくれるで、いい気になったが罰《ばち》あたったんだね」
といって臆病《おくびょう》に笑った。葉子がこの老人をあわれみいたわるさまはわき目もいじらしかった。日本には伝言を頼むような近親《みより》さえない身だというような事を聞くたびに、葉子は泣き出しそうな顔をして合点合点していたが、しまいには木村の止めるのも聞かず寝床から起き上がって、木村の持って来た果物《くだもの》をありったけ籃《かご》につめて、
「陸《おか》に上がればいくらもあるんだろうけれども、これを持っておいで。そしてその中に果物でなくはいっているものがあったら、それもお前さんに上げたんだからね、人に取られたりしちゃいけませんよ」
といってそれを渡してやった。
老人が来てから葉子は夜が明けたように始めて晴れやかなふだんの気分になった。そして例の
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