葉子はなんという事なしに、木村を困らしてみたい、いじめてみたいというような不思議な残酷な心を、木村に対して感ずるようになって行った。事務長と木村とを目の前に置いて、何も知らない木村を、事務長が一流のきびきびした悪辣《あくらつ》な手で思うさま翻弄《ほんろう》して見せるのをながめて楽しむのが一種の痼疾《こしつ》のようになった。そして葉子は木村を通して自分の過去のすべてに血のしたたる復讐《ふくしゅう》をあえてしようとするのだった。そんな場合に、葉子はよくどこかでうろ覚えにしたクレオパトラの插話《そうわ》を思い出していた。クレオパトラが自分の運命の窮迫したのを知って自殺を思い立った時、幾人も奴隷《どれい》を目の前に引き出さして、それを毒蛇《どくじゃ》の餌食《えじき》にして、その幾人もの無辜《むこ》の人々がもだえながら絶命するのを、眉《まゆ》も動かさずに見ていたという插話を思い出していた。葉子には過去のすべての呪詛《じゅそ》が木村の一身に集まっているようにも思いなされた。母の虐《しいた》げ、五十川《いそがわ》女史の術数《じゅっすう》、近親の圧迫、社会の環視、女に対する男の覬覦《きゆ》、女の苟合《
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