いるあばずれ[#「あばずれ」に傍点]たような女中までが目にとまった。そして葉子が体《てい》よく物を言おうとしていると、古藤がいきなり取りかまわない調子で、
 「どこか静かな部屋《へや》に案内してください」
 と無愛想《ぶあいそ》に先《さき》を越してしまった。
 「へいへい、どうぞこちらへ」
 女中は二人をまじまじと見やりながら、客の前もかまわず、番頭と目を見合わせて、さげすんだらしい笑いをもらして案内に立った。
 ぎし[#「ぎし」に傍点]ぎしと板ぎしみのするまっ黒な狭い階子段《はしごだん》を上がって、西に突き当たった六畳ほどの狭い部屋《へや》に案内して、突っ立ったままで荒っぽく二人を不思議そうに女中は見比べるのだった。油じみた襟元《えりもと》を思い出させるような、西に出窓のある薄ぎたない部屋の中を女中をひっくるめてにらみ回しながら古藤は、
 「外部《そと》よりひどい……どこか他所《よそ》にしましょうか」
 と葉子を見返った。葉子はそれには耳もかさずに、思慮深い貴女《きじょ》のような物腰で女中のほうに向いていった。
 「隣室《となり》も明いていますか……そう。夜まではどこも明いている……
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