をいろいろ想像していた。ほかの事は一つも頭の中にははいって来なかった。そしてつくづく自分の心の変わりかたの激しさに驚かずにはいられなかった。「定子! 定子!」葉子は隣にいる人を呼び出すような気で小さな声を出してみた。その最愛の名を声にまで出してみても、その響きの中には忘れていた夢を思い出したほどの反応《こたえ》もなかった。どうすれば人の心というものはこんなにまで変わり果てるものだろう。葉子は定子をあわれむよりも、自分の心をあわれむために涙ぐんでしまった。そしてなんの気なしに小卓の前に腰をかけて、大切なものの中にしまっておいた、そのころ日本では珍しいファウンテン・ペンを取り出して、筆の動くままにそこにあった紙きれに字を書いてみた。
[#ここより引用文、本文より一字下げ]
 「女の弱き心につけ入りたもうはあまりに酷《むご》きお心とただ恨めしく存じ参らせ候《そろ》妾《わらわ》の運命はこの船に結ばれたる奇《く》しきえにしや候《そうら》いけん心がらとは申せ今は過去のすべて未来のすべてを打ち捨ててただ目の前の恥ずかしき思いに漂うばかりなる根なし草の身となり果て参らせ候を事もなげに見やりたもうが恨め
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