んだ倉地の手をすりぬけた。そしていち早く部屋《へや》を横筋かいに戸口まで逃げのびて、ハンドルに手をかけながら、
「あなたはけさこの戸に鍵《かぎ》をおかけになって、……それは手籠《てご》めです……わたし……」
といって少し情に激してうつむいてまた何かいい続けようとするらしかったが、突然戸をあけて出て行ってしまった。
取り残された倉地はあきれてしばらく立っているようだったが、やがて英語で乱暴な呪詛《じゅそ》を口走りながら、いきなり部屋を出て葉子のあとを追って来た。そしてまもなく葉子の部屋の所に来てノックした。葉子は鍵をかけたまま黙って答えないでいた。事務長はなお二三度ノックを続けていたが、いきなり何か大声で物をいいながら船医の興録の部屋にはいるのが聞こえた。
葉子は興録が事務長のさしがね[#「さしがね」に傍点]でなんとかいいに来るだろうとひそかに心待ちにしていた。ところがなんともいって来ないばかりか、船医室からは時々あたりをはばからない高笑いさえ聞こえて、事務長は容易にその部屋《へや》を出て行きそうな気配《けはい》もなかった。葉子は興奮に燃え立ついらいらした心でそこにいる事務長の姿
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