っていた。
「いやです放して」
こういった言葉も葉子にはどこか戯曲的な不自然な言葉だった。しかし倉地は反対に葉子の一語一語に酔いしれて見えた。
「だれが離すか」
事務長の言葉はみじめにもかすれおののいていた。葉子はどんどん失った所を取り返して行くように思った。そのくせその態度は反対にますますたよりなげなやる瀬ないものになっていた。倉地の広い胸と太い腕との間に羽《は》がいに抱きしめられながら、小鳥のようにぶるぶると震えて、
「ほんとうに離してくださいまし」
「いやだよ」
葉子は倉地の接吻《せっぷん》を右に左によけながら、さらに激しくすすり泣いた。倉地は致命傷を受けた獣《けもの》のようにうめいた。その腕には悪魔のような血の流れるのが葉子にも感ぜられた。葉子は程《ほど》を見計らっていた。そして男の張りつめた情欲の糸が絶ち切れんばかりに緊張した時、葉子はふと泣きやんできっ[#「きっ」に傍点]と倉地の顔を振り仰いだ。その目からは倉地が思いもかけなかった鋭い強い光が放たれていた。
「ほんとうに放していただきます」
ときっぱり[#「きっぱり」に傍点]いって、葉子は機敏にちょっとゆる
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